ミストフォールを覆った“謎の停電”は、翌朝になってようやく復旧した。

原因は「地下ケーブルの腐食によるショート」。
調査班の公式見解は、どこか作られたような整然さがあった。
しかし、東地区 Justice も、南地区 Fresh Hellions も、はっきりと気づいていた。
――昨日の停電は、自然に起こったものではない。
霧の中で聞こえた微かな金属音。
誰もいないはずの林道で、技術班を見つめていた“複数の影”。
そして、調査班が回収したケーブル片に残された「意図的に切断された跡」。
二つのチームは、もはや互いを疑ってはいなかった。

疑念の矛先は、別の“どこか”
午前、ミストフォール市庁舎。
リーグ運営委員会の緊急会議は重たい沈黙から始まった。

「この切断跡……。素人の悪戯じゃないな」
「ええ。工具を“知っている”やつの仕事です」
その場に集まった各チームの代表たちは、静かにうなずきあった。
東も南も、西の Mighty Cattle も、北の Grimcats も――
誰もがこの事件に心当たりがなかったからだ。
その瞬間、ひとつの“共通の恐怖”が場を支配した。
まだリーグに登録されていない“何か”
机の中央に置かれたのは、現場付近の防犯カメラがかろうじて捉えた影。
人影のフォルムは細く、鳥の羽根のような輪郭が映っている。
遠すぎて完全には見えないが、確かに何かが立っていた。
「……鳥?」
「いや、動きが違う。生き物じゃなく、装備かも」
その特徴を見た瞬間、北の Grimcats の面々だけが
かすかに目をそらした。
彼らは思い出していた。
かつて北部地区で行われた非公式リーグで、
自分たちの前に立ちはだかった“紫の影”のことを。
Nemesis――
その名を口にした瞬間、空気が凍りつくのを誰もが理解していた。
だが、まだこの時点では誰も確証を得ていない。
そしてリーグ規定上、“登録されていないチーム”の話をすることはできない。
運営は結論をひとつだけ示した。
「停電事件は自然故障として処理する」
だが、それは誰も信じていなかった。
霧の晴れ間に見える、かすかな未来図
復旧した球場に再び光が戻り、
リーグの第4〜6戦の日程は予定通り進行することが決定した。
だが消えたわけではない。
霧の奥で蠢く“第3の勢力”は、確かにリーグの姿を見つめていた。
北の Grimcats のキャプテンは、
ベンチに腰を下ろして誰にも聞こえない声でつぶやいた。

「……あいつらは、まだ終わってない」
紫の影。
黒い翼の紋章。
Nemesisの亡霊。
そして、誰も知らない。
彼らが正式参戦を狙っていることを。
その目的が復讐なのか、あるいは――。
次回予告:第5話「プレーオフ前夜──運命の6戦目」
物語はいよいよ後半戦へ突入する。
残る3試合で、上位2チームがプレーオフへ進出。
しかしその裏で、Nemesisの影がさらに濃くなる。
プレーオフ進出をかけた最後の戦い。
そして“北”に、決定的な事件が起こる――。

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