フロンティア・クロニクル【第8話】帰る場所、進む場所

ミストフォールの朝は、いつになく静かだった。
二日間にわたる大騒動──プレーオフ、失踪、妨害工作──そのすべてが収束し、
街の霧さえもようやく軽くなったように見えた。

カムデン・クラインは病室のベッドで上体を起こしていた。
腕や足には擦り傷が残るが、目ははっきりとしている。
Mighty Cattleのコーチや仲間たちが覗き込むたび、彼は安心させるように笑った。

だが、この朝もっとも重要な出来事は、別の場所で静かに始まっていた。


目次

Ⅰ. Nemesisのキャプテン、姿を見せる

ミストフォール署の応接室。
そこへ現れたのは、白い縦縞のユニフォームに紫のストッキング──
しかし胸にある“C”は、もうGrimcatsのものではない。

Nemesisのキャプテン、Jock Sports。

腕を組んで立つその姿は、
誰もが記憶しているあの頃の“頼れる男”そのままだった。

しかし、すぐに彼は組んでいた腕をおろし、深々と頭を下げた。

「……この度は、うちの応援団が本当に申し訳ない」

低く、よく通る声。
Nemesisの選手たちが関わっていないことも、
彼らが独断で動いた暴走行為だったことも、
すべて自らの口で説明した。

その姿勢は誠実で、まっすぐだった。


Ⅱ. 明かされる“追放”の真相

その場にはGrimcatsの監督、主力選手、そして地区長まで顔を揃えていた。
誰もが、Jockと目を合わせるのを躊躇った。

「お前が……あの事件のあと、行方をくらませて……」

監督が搾り出すように言う。

Jockは静かに首を振った。

「あれは俺自身の判断です。
あの夜、酔っ払いの連中が若い選手に絡んで……
ナイフを抜いた。
守らなきゃいけないと思った。それだけです」

握った拳には、まだ迷いも後悔もなかった。

「殴られた男は入院した。
処分が重くなるのはわかってました」

地区長の顔が苦しげに歪む。

「……私は、あの決断を今も後悔している。
仲間を守るための行動だったことは、調査でわかっていた。
だが、当時の世論に押されてしまった。すまなかった」

沈黙。

やがてJockは、いつものように肩をすくめて笑った。

「恨んじゃいませんよ。
俺はあれで、必要なところへ導かれただけですから」


Ⅲ. 「帰ってきてほしい」──それでも彼は首を振った

Grimcatsの主力選手が立ち上がった。

「Jock。戻ってきてくれないか。
今のお前なら……いや、今こそお前が必要だ」

監督も、地区長も、同じ眼差しだった。

Jockは、少しだけ視線を落とした。
その目は、ほんの一瞬だけ揺れていた。

しかし次の瞬間、はっきりとした声で告げた。

「……俺を待ってくれた仲間が、 Nemesis にいるんです。
弱くて、荒れてて、礼儀も知らねえ。
でも、俺が必要だと言ってくれる。
そこを離れるわけにはいかない」

その言葉は、迷いのない誓いのようだった。

Grimcatsの面々は深く息をつき、そしてうなずいた。

「……わかった。
なら、俺たちはお前の選んだ道を祝福する」


Ⅳ. Nemesis、正式加入へ

リーグ運営委員会は、Jockの説明と誠意を評価した。
妨害工作は“応援団のみの暴走”と正式に認定され、
Nemesis球団に処分は下されなかった。

それどころか──

「次シーズンから、Nemesisをリーグに正式参加させたい」

という打診が行われた。

Nemesisの若手たちは最初こそ戸惑ったが、
Jockが一言、

「胸を張れ。お前らはもう、外のチームじゃねぇ」

と言った瞬間、全員が涙ぐんでうなずいた。

Nemesisは正式に、大舞台へ戻ってくるのだ。


Ⅴ. 五つのチームが、同じ空を見上げる

プレーオフの喧騒が去ったミストフォール球場。
グラウンドには、早朝の薄い光が差し込んでいる。

Fresh Hellions──優勝を手にし、新たな強打者を迎える準備をする。
Grimcats──失われていた一枚のロッカールーム写真が、Jockの顔を取り戻す。
Mighty Cattle──エース・カムデンが帰還し、仲間たちが再び肩を組む。
JASTICE──新人内野手を送り出した後、静かな再建へ。
そしてNemesis──胸に刻んだ“C”を誇りに、正式なリーグ参戦へ歩み出す。

五つのチームが、同じ空へと目を向ける。
霧が晴れたミストフォールの朝に、
それぞれの影が同じ方向へ伸びていく。

新しい季節は、もうすぐそこまで来ていた。

あとがき|ミストフォールの霧が晴れたあとで

いかがだったでしょうか?
これにて、ひとまず SMB4創作物語・シーズン1 は完結です。

物語を振り返ると、なんだかんだで王道ドラマのような決着になりました。
「追放された男の復活」「誤解の解消」「仲間たちとの再会」「そして新たな仲間の加入」──
書いているうちに自然と “こういう流れ” へ転がっていった感があります。

本当は、チーム追加はルーレットで決めるつもりだったんです。
ところが最終的には、流れ的に「Nemesisが入らないと締まらない!」となり、
完全に物語の必然として1チーム参加させる展開になってしまいました。

試合部分についても正直に告白すると、
リーグ戦のうち、自分で操作したのは最初の2試合だけで、しかも全敗……。
その後は仕事の忙しさもあり、残りはすべてCOM同士で消化してもらいました。


それでも物語としてのドラマは生まれるもので、
AI選手たちの動きが勝手にストーリーを作ってくれる瞬間が何度もありました。

そして最後に。


シーズン2は……2026年にするかもしれないし、しないかもしれません。
気が向けば始まるし、気が向かなければ永遠にこのまま。
そんな気ままさも含めて、この創作を楽しんでいただけたら幸いです。

それでは、また次の霧が晴れる日まで。

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