フロンティア・クロニクル【第1話】リーグ創設前夜|4つの地区が動き出す瞬間

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【フロンティア・リーグ創設前夜】― 小さな街が息を吸い込む、物語のはじまり ―

アメリカ中部の片隅に、ひっそりと息づくフロンティア・タウン。
人口三万人にも届かない、地図の上では見落としてしまうほどの小さな街だ。

しかし、この街には奇妙なほど濃密な“方角”がある。
北・東・西・南――その四つの方向に、まるで四つの顔を持つかのように異なる地区が広がり、
それぞれが長い年月のなかで独自の文化を育ててきた。

互いはほとんど交わらない。
同じ街でありながら、まるで四つの孤島が並んでいるような場所だった。

だが、この孤立した土地から、後に街全体の運命を揺り動かす四つのチームが生まれることになる。
これは、その“創設前夜”の物語である。


Mighty Cattle

― 北の草原に響く「伝統」の蹄音 ―

北部のブルーホーン地区は、風の音さえ広大な牧草地に吸い込まれる静かな土地だ。
遠くまで続く草原、そこに点在する牧場。そして、牛の群れを見守るようにそびえる青みがかった山脈。

球場は木製スタンドの素朴な造りで、
試合が始まれば土埃が舞い、観客の歓声よりも風の音のほうが力強いこともある。

野球は、牧場主たちが長い一日の終わりに手にする、つかの間の娯楽だった。

毎年行われる「ブルーホーン野球祭」はこの地区の誇りであり、
家族ぐるみで受け継がれてきた伝統行事でもあった。

その祭りが終わったある年の夕暮れ、
古い帽子をかぶった牧場主の老人がぽつりと漏らした。

「北だけで楽しむのは、もういいだろう。
たまには、この街全体と勝負してみたいじゃないか。」

たった一言だった。


だが、その言葉は、選手たちの胸に深く刺さる火種となった。

――伝統は守るだけではなく、広げるものだ。

そうして、Mighty Cattle は北から動き始めた。
蹄の音を響かせるように、静かだが確かな歩みで。


Justice

― 東の「誇り」が掲げる、規律の旗 ―

東側のリバティ・ハイツ地区は、街の“中枢”と呼ばれる場所だ。

警察学校、消防局、記念碑的建造物――
どれも重々しく、そして清潔な空気をまとっている。
ここでは「誇り」「秩序」「礼節」が市民の根にまで染み込んでいた。

Justice の原点は、警察官と消防士による合同チームである。
彼らは鍛え抜かれた身体と揺るがない規律を武器に、
休日の試合でも一切の手を抜かないことで知られていた。

ある日の練習後、署長が隊員たちを前に立ち、静かに言葉を落とした。

「市民に誇れるのは職務だけじゃない。
我々がどう立つか、その“姿勢”だ。
この街全体の代表として立つ覚悟はあるか?」

その言葉に、選手たちはひとり残らず黙って頷いた。

――勝ち負け以上に、名誉を示すために存在するチーム。

Justice は東から参戦することを決めた。
その背には、地区の期待と規律の旗が高く掲げられていた。


Grim Cats

― 西の霧に潜む、静かな獣たち ―

西側のミストフォール地区は、常に霧に包まれた奇妙な土地だ。

深い渓谷、森へとつながる細い山道、朽ちた炭鉱跡。
外からの人間が足を踏み入れることは滅多にない。
住人たちも慎重で寡黙で、影のように静かだった。

この地区では、野球は単なるスポーツではない。
霧の中を走り、岩場を飛び越え、足元を研ぎ澄ませる。
それは、生き延びるために必要な“身体訓練”の延長のようなものだった。

ある夜、キャプテンが仲間たちに向かって言った。

「俺たちは、この街では霧の影みたいなものかもしれない。
だが、一度ぐらい光の中に出てみたいとは思わないか?」

その場を包む静寂は、いつもより長く重かった。
だが最後には、全員が頷いた。

――静かに、しかし確かに。狩るように進む。

Grim Cats は、霧の中から歩み出した。


Fresh Hellions

― 南の炎が叫ぶ、「反逆」の始まり ―

南のアッシュクレスト地区は、錆びついた鉄と落書きが支配する荒んだ地域だ。

廃工場、製鉄所跡、崩れた倉庫街。
夜になれば赤いネオンがゆらぎ、その下を若者たちが駆け抜けていく。

彼らは、街から見捨てられたような環境の中で、
グラフィティの壁を背景にストリート野球に興じていた。

ある夜、地区の有名なアーティストが彼らに叫んだ。

「お前らの野球を、他の地区にも見せてやれ!
この街で一番燃えてるのは、お前らだ!」

若者たちは円陣を組んで、心の中で叫んだ。

「世界に殴り込みだッ!」

怒りと情熱をエネルギーに変え、
Fresh Hellion は南から猛然と名乗りを上げた。


そして、4つの物語が交差する

市庁舎の会議室。
小さなテーブルを囲むように、四つの地区の代表が集まった。

議題はひとつだけ。

――街全体を巻き込む、本格的な野球リーグを作れるのか。

意見は鋭くぶつかり合い、
時に怒号も飛び、
机が揺れることもあった。

しかし、議論の末に、四つの目は同じ方角を向き始めた。

Mighty Cattle の長老は言った。
「伝統は、守るだけでなく広げるものだ。」

Justice のキャプテンは言った。
「今こそ秩序を築くべき時だ。」

Grim Cats のリーダーは言った。
「静かな獣にも、牙があることを示す。」

Fresh Hellion は笑いながら言った。
「全部まとめてひっくり返してやるよ。」

そして、ひとつの答えが生まれた。

「フロンティア・リーグを作ろう。」

ホーム&アウェイの総当たり戦、
上位二チームによるプレーオフ。
街の未来は、この瞬間から動き出した。

四つの地区が、初めて同じ地平を見つめていた。
これはその、最初の一歩の物語である。

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