抽選会の長い夜
2025年12月5日の夜──いや、正確には日本時間で6日の未明。久しぶりに夜更かしをして、ワールドカップの組み合わせ抽選会を見守ることにした。
しかし、抽選はなかなか始まらない。歌あり、スピーチあり、そしてなぜかドナルド・トランプ氏まで登場する。華やかなセレモニーが延々と続く中、ようやく抽選が始まったのは、予定時刻からかなり経ってからだった。
FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長(写真左)とトランプ米大統領。2026年ワールドカップ(W杯)北中米3カ国大会1次リーグ組み合わせ抽選会で5日撮影。REUTERS/Kevin Lamarque
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1時間ほど頑張って画面を見つめていたが、睡魔には勝てず、ついに諦めて布団に潜り込んだ。それでも気になって、朝6時には目を覚まし、すぐに結果を確認した。
グループF──日本の戦場
日本が入ったのはグループF。相手は、オランダ、チュニジア、そしてプレーオフ勝者の1チーム。プレーオフ組の候補は、ウクライナ、スウェーデン、ポーランド、アルバニアだという。
正直に言えば、決して楽なグループではない。オランダは「トータルフットボール」の伝統を誇る強豪国で、フィルジル・ファン・ダイクという世界最高峰のディフェンダーを擁している。チュニジアもアフリカの中では堅実な守備力を持つチームだ。プレーオフから上がってくる国も、どこも一筋縄ではいかない相手ばかり。
でも──不思議と悲壮感はなかった。
カタールの記憶が勇気をくれる
2022年のカタール大会
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なぜ落ち着いていられるのか。それは2022年、カタール大会での日本代表の戦いぶりが、まだ鮮明に記憶に残っているからだ。
あの大会で、日本はドイツとスペインという2つの優勝経験国を立て続けに破った。「死の組」と呼ばれたグループEで、誰もが予想しなかった逆転劇を演じてみせたのだ。ドイツ戦での後半の怒涛の攻撃、スペイン戦での三笘薫の「あの1ミリ」──あの興奮を思い出せば、どんな相手が来ても臆することはない。
”三苫の1 mm”
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オランダが相手でも、プレーオフからポーランドやスウェーデンが上がってきても、やれることをやるだけだ。日本代表は、もう誰も「格下」だと思っていない。
油断こそが最大の敵
ただし、こういう時こそ危ない。
「前回ドイツとスペインを倒したんだから大丈夫」という慢心が、一番怖い。サッカーというスポーツは、過去の栄光を引きずって戦えるほど甘くない。むしろ、前回の快挙があるからこそ、相手は日本を研究し尽くしてくる。「またやられるわけにはいかない」と、全力で立ち向かってくるだろう。
自信を持つことと、油断することは違う。
コロっと予選敗退──そんな悪夢のシナリオを避けるためには、謙虚に、しかし堂々と戦うしかない。カタールでの勝利は、日本代表の実力を証明したが、同時にそれは「一度きりの奇跡」ではなく、「継続できる実力」であることを示さなければならない。
オランダとの因縁、チュニジアとの再会
オランダといえば、日本にとっては因縁深い相手だ。2010年南アフリカ大会のグループステージ、6月19日に行われた試合では、ウェズレイ・スナイデルの1点に泣き、0-1で敗れた。あの日の悔しさを覚えている人も多いだろう。
2010年 南アフリカ大会でのスナイデル
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しかし、あれから16年が経つ。日本のサッカーは進化し、世界のトップリーグで活躍する選手たちも増えた。三笘薫、久保建英、遠藤航──彼らは、もはや世界レベルの選手として認められている。2010年の借りを返す絶好の機会が、ついに巡ってきた。
一方、チュニジアとは2002年の日韓大会以来、24年ぶりの対戦となる。あの時は中田英寿と森島寛晃のゴールで2-0と快勝した。とはいえ、四半世紀近くが経った今、チュニジアも大きく変わっているはずだ。アフリカ予選を勝ち抜いてきた彼らの粘り強い守備と速いカウンターは、決して侮れない。
そしてプレーオフ勝者──ウクライナであれば戦争の中で戦い続けた不屈の精神、スウェーデンであればズラタン・イブラヒモビッチ後の新しい時代を築こうとする意欲、ポーランドであればレヴァンドフスキという世界的ストライカーの存在感、アルバニアであれば初のワールドカップ出場という歴史的瞬間。どの国が来ても、一筋縄ではいかない。
48チームが織りなす新時代
2026年のワールドカップは、史上初めて48チームが参加する。カナダ、メキシコ、アメリカの3カ国共同開催という、これまでにない規模の大会だ。
12のグループに分かれ、それぞれが独自の物語を紡いでいく。ディフェンディングチャンピオンのアルゼンチン、永遠の強豪ブラジル、復活を目指すドイツやイングランド。そして、キュラソー、カーボベルデ、ヨルダン、ウズベキスタンといった、初出場の国々も舞台に上がる。
日本は、この壮大な物語の一部として、グループFという舞台で戦うことになる。
6月11日に向けて
2026年6月11日、大会が開幕する。
それまでの約18ヶ月間、日本代表は準備を重ねていく。監督の戦術、選手の調子、チームの雰囲気──すべてが整ったとき、日本はグループFという戦場で、再び世界を驚かせることができるはずだ。
出典:日本経済新聞
眠れぬ夜を過ごして確認した組み合わせ。オランダ、チュニジア、そしてプレーオフ勝者。厳しい戦いになるだろう。でも、カタールでの記憶があるから、恐れはない。
ただし、油断だけは禁物だ。
2026年の夏、北米の地で、日本代表がどんな物語を紡ぐのか。期待と不安が入り交じった気持ちで、その日を待つことにしよう。キックオフの笛が鳴るまで、長い、しかし楽しみな時間が続く。
参考:2026 FIFAワールドカップ グループステージ組み合わせ
グループ別組み合わせ
グループA:メキシコ(共同開催国)、南アフリカ、大韓民国、UEFAプレーオフD組勝者
共同開催国メキシコを中心に、韓国という強豪と南アフリカが激突。プレーオフD組からは、1990年準々決勝進出のアイルランド共和国、あるいは2004年欧州選手権優勝のギリシャが加わる可能性がある。どちらが上がってきても、グループの勢力図を大きく変える存在だ。
グループB:カナダ(共同開催国)、UEFAプレーオフA組勝者、カタール、スイス
カナダにとって3回目のワールドカップ出場となるこのグループ。プレーオフA組には、2006年王者イタリアと、ガレス・ベイルの後を継ぐ若手たちが奮闘するウェールズが控えている。もしイタリアが勝ち上がれば、「アズーリ」の青いユニフォームが再び世界の舞台を彩ることになる。カタールは2022年大会の経験を、スイスは堅実な組織力を武器に挑む。
グループC:ブラジル、モロッコ、ハイチ、スコットランド
5度の優勝を誇るブラジルと、2022年準決勝進出のモロッコという2つの強豪が同居。1974年以来52年ぶりの出場となるハイチと、スコットランドが加わり、南米、アフリカ、カリブ海、欧州の4大陸が交錯する、まさにワールドカップらしいグループとなった。
グループD:アメリカ合衆国(共同開催国)、パラグアイ、オーストラリア、UEFAプレーオフC組勝者
3つ目の共同開催国アメリカは、クリスチャン・プリシッチを中心に1930年の準決勝以来となる快進撃を目指す。プレーオフC組には、2002年3位のトルコや、堅実な守備を誇るスロバキアが名を連ねる。トルコが上がってくれば、アルダ・ギュレルという若き才能が再び世界を沸かせるだろう。
グループE:ドイツ、キュラソー、コートジボワール、エクアドル
4度の優勝国ドイツに、ワールドカップ初出場のキュラソーが挑む。カリブ海の小さな島国が、世界最大の舞台でどんな戦いを見せるのか。コートジボワールとエクアドルも加わり、世代交代を迫られるドイツにとって、油断できないグループとなった。
グループF:オランダ、日本、UEFAプレーオフB組勝者、チュニジア
日本が所属するこのグループは、過去と未来が交錯する舞台だ。2010年に0-1で敗れたオランダとのリベンジマッチ、2002年に2-0で勝利したチュニジアとの再会。
そして、プレーオフB組からは、ウクライナ(2006年準々決勝)、スウェーデン、ポーランド(レヴァンドフスキ擁する強豪)、アルバニア(初出場の可能性)のいずれかが加わる。このプレーオフB組は最も激戦が予想され、どの国が上がってきても日本にとって手強い相手となるだろう。
グループG:ベルギー、エジプト、イラン、ニュージーランド
ケビン・デ・ブライネ率いるベルギーの「黄金世代」最後の挑戦。エジプトのモハメド・サラー、イランの規律正しい戦術、ニュージーランドのフィジカルな戦い。スター選手の輝きとアンダードッグの粘りが交錯するグループだ。
グループH:スペイン、カーボベルデ、サウジアラビア、ウルグアイ
2010年王者スペインと、1930年・1950年の優勝国ウルグアイという伝統国が同居。ワールドカップ初出場のカーボベルデ──大西洋に浮かぶ島国が、どんなサッカーを見せてくれるのか。サウジアラビアは1994年のベスト16以来の快進撃を狙う。
グループI:フランス、セネガル、大陸間プレーオフ2組勝者、ノルウェー
2018年王者フランスは、キリアン・エンバペを擁して連覇を狙う。セネガルは2002年準々決勝の再現を、26年ぶり出場のノルウェーはアーリング・ハーランドという得点マシーンを武器に挑む。大陸間プレーオフ2組からは、高地での戦いを得意とするボリビアや、オランダ領だった歴史を持つスリナムが上がってくる可能性がある。
グループJ:アルゼンチン、アルジェリア、オーストリア、ヨルダン
ディフェンディングチャンピオンのアルゼンチンに、ワールドカップ初出場のヨルダンが挑む。中東の小国が、リオネル・メッシの遺産を受け継ぐ王者と同じピッチに立つ──これもまた、48チーム制がもたらした新しい物語だ。アルジェリアは2014年のベスト16以上を、1998年以来のオーストリアは1954年の3位以来の快挙を目指す。
グループK:ポルトガル、大陸間プレーオフ1組勝者、ウズベキスタン、コロンビア
クリスティアーノ・ロナウド率いるポルトガルと、2014年準々決勝のコロンビアが激突。ワールドカップ初出場のウズベキスタンが中央アジアの粘り強さを見せる。大陸間プレーオフ1組からは、レゲエボーイズの愛称で知られるジャマイカ(1998年出場)や、フランス領ニューカレドニア(太平洋の島々から初のワールドカップ出場国誕生の可能性)が上がってくるかもしれない。
グループL:イングランド、クロアチア、ガーナ、パナマ
1966年優勝国イングランドと、2018年準優勝国クロアチアの因縁の対決。ハリー・ケーンとルカ・モドリッチという2人の名手が率いる両チームに、2010年準々決勝のガーナと、粘り強いパナマが挑む。欧州、アフリカ、中米が入り混じる多様性に富んだグループだ。
2026 FIFAワールドカップ グループステージ組み合わせ
| グループ | 出場国 |
|---|---|
| A | メキシコ(共同開催国)、南アフリカ、大韓民国、UEFAプレーオフD組勝者 |
| B | カナダ(共同開催国)、スイス、カタール、UEFAプレーオフA組勝者 |
| C | ブラジル、モロッコ、ハイチ、スコットランド |
| D | アメリカ合衆国(共同開催国)、パラグアイ、オーストラリア、UEFAプレーオフC組勝者 |
| E | ドイツ、キュラソー、コートジボワール、エクアドル |
| F | オランダ、日本、チュニジア、UEFAプレーオフB組勝者 |
| G | ベルギー、エジプト、イラン、ニュージーランド |
| H | スペイン、ウルグアイ、サウジアラビア、カーボベルデ |
| I | フランス、セネガル、ノルウェー、大陸間プレーオフ2組勝者 |
| J | アルゼンチン、アルジェリア、オーストリア、ヨルダン |
| K | ポルトガル、コロンビア、ウズベキスタン、大陸間プレーオフ1組勝者 |
| L | イングランド、クロアチア、ガーナ、パナマ |
※黄色背景は日本が所属するグループF
※プレーオフ枠は2026年3月に確定予定
UEFAプレーオフ詳細(2026年3月開催)
| プレーオフ組 | 準決勝対戦カード | 決勝対戦カード | ワールドカップでのグループ |
|---|---|---|---|
| A組 | イタリア vs 北アイルランド ウェールズ vs ボスニア・ヘルツェゴビナ |
準決勝勝者同士 | グループB |
| B組 | ウクライナ vs スウェーデン ポーランド vs アルバニア |
準決勝勝者同士 | グループF |
| C組 | トルコ vs ルーマニア スロバキア vs コソボ |
準決勝勝者同士 | グループD |
| D組 | チェコ vs アイルランド共和国 デンマーク vs 北マケドニア |
準決勝勝者同士 | グループA |
※黄色背景は日本と同じグループFに入るプレーオフB組
※準決勝:2026年3月26日、決勝:2026年3月31日(いずれも1試合制)
大陸間プレーオフ詳細(2026年3月、メキシコで開催)
| プレーオフ組 | 準決勝対戦カード | 決勝対戦カード | ワールドカップでのグループ |
|---|---|---|---|
| 1組 | ニューカレドニア(OFC)vs ジャマイカ(CONCACAF) | 準決勝勝者 vs コンゴ民主共和国(CAF・シード) | グループK |
| 2組 | ボリビア(CONMEBOL)vs スリナム(CONCACAF) | 準決勝勝者 vs イラク(AFC・シード) | グループI |
※全試合メキシコで開催(エスタディオ・アクロン/グアダラハラ、エスタディオBBVA/モンテレイ)
※準決勝:2026年3月26日、決勝:2026年3月31日(いずれも1試合制)
※CAF=アフリカ、AFC=アジア、OFC=オセアニア、CONCACAF=北中米カリブ海、CONMEBOL=南米
各チームの特徴
- コンゴ民主共和国(CAF代表): アフリカ予選3位、FIFAランキング上位のためシード扱い
- イラク(AFC代表): アジア予選4位、FIFAランキング上位のためシード扱い
- ジャマイカ(CONCACAF): 「レゲエボーイズ」の愛称、1998年大会出場経験あり
- スリナム(CONCACAF): 南米北部の小国、オランダ領だった歴史を持つ、初出場の可能性
- ニューカレドニア(OFC): 太平洋の島々、フランス領、初出場なら太平洋諸島から初のワールドカップ出場国誕生
- ボリビア(CONMEBOL): 南米予選7位、高地での戦いを得意とする、9回目の出場を目指す
決勝トーナメント進出の条件
- 各グループ上位2チーム(計24チーム)
- 成績上位の3位チーム8チーム
- 合計32チームが決勝トーナメントに進出
2026年3月、最後のピースが埋まる
現時点では、6つのプレーオフ枠がまだ確定していない。2026年3月に世界各地でプレーオフが行われ、最後の6チームが決まる。その時、48チームという壮大なパズルが完成する。
日本のグループFに加わるのは、ウクライナか、スウェーデンか、ポーランドか、それともアルバニアか。その答えを知るまで、あと数ヶ月。そして6月11日、北米の地で、新しい時代のワールドカップが幕を開ける。
48という数字が示すのは、サッカーが本当の意味で世界のスポーツになったという事実だ。キュラソー、カーボベルデ、ヨルダン、ウズベキスタン──かつては夢のまた夢だった国々が、今や世界最高峰の舞台に立とうとしている。2026年の夏、私たちは歴史の証人となる。






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