『おしい刑事』レビュー|ズレてるのに愛される?ダサくて惜しい刑事ドラマ【ネタバレあり】

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最初に言っておきたい。この刑事、全然キマらない。でもそこがイイ!

風間俊介さんが主演を務めたNHKドラマ『おしい刑事』シリーズ(2019・2021年放送)は、「惜しい」に全振りした刑事ドラマです。推理力はあるのに詰めが甘くて、毎回”そこじゃないだろ!”ってズレた結論を出しちゃう主人公・押井敬史が、なんともクセになる存在感を放っています。

普通、推理ドラマの主役って、もっとシュッとしててカッコいいじゃないですか。ところが押井刑事は、柄シャツ×柄ネクタイで決め顔しながら「犯人は…あなたです!」ってカメラ目線。でも間違ってる。めちゃくちゃ真剣なのに、なぜか最後の最後でズッコケる。そのギャップがたまらないんです。

何よりも見事だったのが、風間俊介さんの絶妙な”惜しさ”の演技。もしこれがやりすぎると、ただの”変態キャラ”になりかねないところを、不快感ギリギリの手前でしっかり踏みとどまり、ただただダサくて、でも憎めないキャラに仕上げてきたのはさすが。彼の真面目で誠実なイメージが、押井刑事の”報われないけど頑張ってる感”と噛み合っていて、共感すら覚えるレベルです。

実際、風間俊介さん自身もキャスティングの理由について「あ、僕惜しい人なんだ」と語っており、その素朴で親しみやすい人柄が押井刑事の魅力を何倍にも増幅させています。

この記事では、そんな『おしい刑事』の魅力や笑いどころ、そして見終わってから「あの展開、実は深いぞ…」と思わせる仕掛けまで、たっぷりご紹介します!

作品情報と原作について

  • 作品名:『おしい刑事』『やっぱりおしい刑事』
  • 原作:藤崎翔(『おしい刑事』ポプラ文庫・2016年10月刊行)
  • 放送年:2019年(S1・全4話)/2021年(S2・全8話)
  • 放送局:NHK BSプレミアム「プレミアムドラマ」枠
  • 主演:風間俊介
  • 脚本:宇田学(『99.9-刑事専門弁護士-』『4号警備』など)

元お笑い芸人から横溝正史賞作家へ – 原作者の異色の経歴

原作者の藤崎翔さんは実に異色の経歴を持つミステリ作家です。1985年茨城県生まれで、高校卒業後に6年間お笑い芸人として活動。2014年に『神様の裏の顔』で第34回横溝正史ミステリ大賞を受賞しデビューしました。

『おしい刑事』には6つの連作短編が収録されており、「おしい刑事参上」「おしい刑事のテスト」「密着・おしい刑事」「おしい刑事の雪冤」「安楽椅子おしい刑事」「おしい刑事よ永遠に」というタイトルで、押井刑事の残念すぎる活躍が描かれています。

元お笑い芸人という経歴が、この作品の絶妙なコメディバランスに生かされているのは間違いありません。シリアスになりすぎず、でもコメディに偏りすぎない、その絶妙な塩梅は藤崎さんのエンターテイナーとしての感覚あってこそでしょう。

脚本家・宇田学の手腕

脚本を手がけたのは、『99.9-刑事専門弁護士-』で知られる宇田学さん。劇団「PEOPLE PURPLE」主宰として舞台も手掛ける多才な脚本家で、阪神・淡路大震災を描いた代表作「ORANGE」でも注目を集めました。

宇田さんの脚本は「リアルとドラマの擦り合わせが上手」と評価が高く、膨大な取材とリサーチに基づくリアリティと、フィクションの面白さを絶妙に両立させることで知られています。『おしい刑事』でも、その手腕が存分に発揮されています。

あらすじ(ざっくり・ネタバレなし)

舞台は、警視庁の下部組織・宇戸橋署。そこに所属するのが、今回の主人公・押井敬史(おしい・たかふみ)刑事。推理力も観察眼も一級品、なにせ一瞬で現場の違和感を見抜き、ものすごく説得力ある推理を展開するのですが……最後の最後でとんでもない見落としをやらかし、事件を仕損じてしまうという、まさに「惜しい刑事」。

押井は並外れた推理力で見事に犯人を追い詰めながらも、必ず最後に思わぬ展開から手柄を横取りされてしまう運命にあります。相棒の横出徹(犬飼貴丈)が、毎回偶然や運で真犯人を逮捕し、上司の伊多田係長(板尾創路)がその手柄をさらに”いただいて”出世を狙うという、まさに「報われない努力」の典型です。

毎回「おおっ、押井さんすごい!」と思わせておいて、ラスト5分で「えぇっ、それで間違ってたの!?」とずっこけさせられる流れが基本フォーマット。でも、押井の推理ってまったく無意味じゃない。ズレてるけど、視点は鋭い。言い換えるなら、”惜しいけど、惜しむべき価値のある人”。この構図が、作品全体の魅力につながっていきます。

シーズン1からシーズン2への展開

シーズン1(2019年)は全4回で、押井刑事の基本的な”惜しさ”を確立。過去の誘拐事件やヒロイン・灰田絵奈(石川恋)の妹の死が影を落とし、「軽く見えて、実は重い」空気を漂わせました。

そして続編『やっぱりおしい刑事』(2021年)では全8回に拡張。新たに白石聖演じる新人刑事・美良山来海、橋本涼演じる新人鑑識官・小河内朔流、萩原みのり演じる女子大生・嶋ありさが加わり、一筋縄ではいかない”知能犯”羽堂亜郎(武田真治)の存在が物語をグッと引き締めることになります。

見どころ・注目ポイント

1. 風間俊介の”惜しさ”が絶妙!ダサいのに魅力的ってどういうこと?

この作品の肝はなんといっても、風間俊介さん演じる押井刑事の”ダサくて愛しい”キャラクター造形にあります。柄シャツに柄ネクタイという絶妙にセンスのないファッションで、いかにも自信満々に「真相はこうだ!」と演説を始める彼。視聴者の中には「また始まったよ」と思いつつも、「今度こそ当たってて!」と願ってしまう不思議な魅力があります。

風間俊介さんにとって『おしい刑事』は連続ドラマ初単独主演作品でもあり、ジャニーズ出身でありながら、どこか”素朴で真面目”な印象が強い風間さんだからこそ、この”惜しくて残念”な役がものすごくハマっています。

「演技力」じゃなくて、”人柄”そのものが役とシンクロしている感じがして、そこにリアリティと説得力があるんです。

風間さん自身も「あの『おしい刑事』が帰ってきます。今回は『やっぱりおしい刑事』というタイトルなのですが、『もっと』とか『さらに』ではないんですね。そうです、再確認です。盛りだくさんの残念さで皆さまに『やっぱりおしい!』と言っていただけるように精進していきたい」とコメントしており、この作品への愛着と理解の深さがうかがえます。

ちょっと間違えたぐらいで怒られたくないし、ダサくてもバカにされたくない。そんな気持ち、誰しも少しはあるはず。押井刑事は、そんな「不完全だけど真剣な人たち」の代弁者みたいに見えてくるから、応援したくなるんです。

2. キャラの名前からして”ダジャレ”!でも実は深い

登場人物たちの名前がいちいち”ダジャレ”になっていて、最初はギャグかと思うんですが、実はこれが構造的な仕掛けになっているのが面白いところ。

主人公の「押井敬史(おしい・たかふみ)」から始まって、「横出徹」は押井の横で手柄を取る相棒、「伊多田清」は部下の功績を”いただく”上司として機能します。さらにシーズン2では、「美良山来海(みらやまくるみ)」という”未来が来る”ことを暗示する名前の新人刑事や、「小河内朔流(しょうこうちさくる)」というポワロを尊敬する鑑識官も登場。

「あからさまじゃん!」と思うけど、この”名前=運命”みたいな設定が、逆にドラマ全体のユーモアとシニカルさを深めてくれてるんです。

ただ笑わせたいんじゃなくて、「世の中って理不尽だよね」っていうメッセージを、ゆるいギャグの中に紛れ込ませてくる。この辺のバランス感覚、かなり秀逸です。

3. 笑いだけじゃなく、ちゃんと”怖さ”もある構成

シーズン1では過去の誘拐事件という重いテーマも織り込まれていましたが、シーズン2で登場する羽堂亜郎(武田真治)は、「完全すぎる悪役」として、押井の”惜しい善人”っぷりを際立たせる存在です。表面上はカウンセラーとして接近してきますが、裏では巧妙な罠を仕掛け、押井を犯人に仕立て上げようと画策します。

しかも、押井が信頼していた居候女子・嶋ありさ(萩原みのり)までもが、実は羽堂の手先だったという衝撃展開。この”笑いと裏切りの落差”がクセになるし、最後のどんでん返しはなかなかの読み応えです。

最終話では、羽堂が押井に「2年前にホテルで起きた転落事故の真相を突き止めたら、無実を証明してあげよう」という挑戦状を突きつけ、追い詰められた押井が来海と共に真相解明に挑むというスリリングな展開も用意されています。

ネタバレあり:最終回は”惜しさ”の卒業? それとも肯定?

ここからは『やっぱりおしい刑事』最終回の重要なネタバレを含みます。未視聴の方はご注意ください。

羽堂の罠により、一度は「これまでの事件はすべて自作自演だった」という汚名を着せられ、追われる立場になった押井刑事。でも、宇戸橋署の仲間たちは、彼の”惜しさ”をちゃんと理解していて、見捨てないんです。真面目で、時に滑って、時に間違えるけど、一生懸命な押井のことを、ちゃんと信じて支えてくれる。

最終話では、羽堂が仕組んだ”2年前の事故”に隠された真相を押井が暴き、ついに形勢逆転。彼は完璧じゃなかったけど、仲間とともに”完全犯罪”を打ち砕いたんです。

これ、ヒーローが「成長して最強になる」っていう定番パターンじゃないんですよね。押井は最後まで惜しいまま。だけど、それを認めてくれる仲間がいるから、彼は”ヒーローにならずにヒーローになれた”って感じ。

そして、押井がずっと想いを寄せていた灰田に結局フラれてしまうというオチまで…。灰田は「わたしはわたしのことだけを好きな人が好きなんです」と押井の優柔不断さを指摘し、「男は一途じゃないと」とたしなめました。完全に報われない。でも、そんなところも含めて”押井らしい”ラストでした。

さらに、ありさからも「あるわけないじゃん(押井への想いなど)」「幸せになれよおっさん」と言われ、最後は来海に告白するも「すべて忘れてくれ」と言ったため、来海は本当に忘れて去ってしまうという、最後の最後まで”おしい”オチが待っていました。

この作品、こんな人に刺さるはず

  • 完璧なヒーローに疲れてる人
  • 頑張ってるのに報われない経験がある人(たぶん全員)
  • 風間俊介の「真面目なのにズレてる」演技が好きな人
  • 『99.9』『トリック』『相棒』みたいな、ちょっと変な刑事ドラマが好きな人
  • ギャグとシリアスが両立してる物語が見たい人
  • 元お笑い芸人が書いたミステリに興味がある人
  • NHK BSプレミアムの隠れた名作を発掘したい人

まとめ:惜しいままでも、ちゃんと届く。

『おしい刑事』って、派手なアクションもなければ、凄腕探偵の華麗なロジックショーがあるわけでもないんです。でも、その代わりに、”惜しいけど、真面目で、仲間に支えられてる”という、どこか自分にも似ているような主人公がいます。

このドラマは「とにかく愛くるしい押井刑事を風間俊介がコミカルな演技で熱演したコメディーミステリードラマ」として、いつのまにか応援せずにはいられない不思議な魅力を持っています。

押井刑事は、ずっと完璧にはなれなかった。でも、それでもいい。惜しいままで、一生懸命に人を想い、事件に向き合っていれば、ちゃんと伝わる。ちゃんと道は開ける。

元お笑い芸人から横溝正史賞作家になった藤崎翔さんの原作と、『99.9』の宇田学さんの脚本、そして風間俊介さんの絶妙な演技が三位一体となって生み出されたこの作品は、現代のテレビドラマ界でも稀有な存在と言えるでしょう。

このドラマは、そう言ってくれている気がします。ダサくても、不器用でも、あなたはあなたでいいんだよ──そんなふうに背中を押してくれる、静かな応援歌のような作品でした。

English Summary

Oshii Keiji – Full Analysis, Themes & Interpretation

TL;DR

Oshii Keiji is a Japanese detective story that subverts genre expectations by focusing less on a single “whodunit” and more on character depth, moral ambiguity, and the burdens of justice. This article analyzes how the series uses atmosphere, personal conflict, and systemic critique to elevate a procedural format into a story about human cost and institutional failure.

Background and Context

The drama centers on a detective named Oshii, portrayed as a thoughtful, often world-weary investigator. Rather than glorifying detective brilliance, the series emphasizes the emotional and moral toll of investigating crime. Its tone is contemplative, resisting sensational twists in favor of psychological realism and social observation.

Plot Summary (No Spoilers)

Detective Oshii is assigned to various homicide and missing-person cases. Each case confronts him with conflicting testimonies, moral gray zones, and systemic barriers in law enforcement. Over time, a recurring antagonist, institutional inertia, and Oshii’s personal past begin to intersect, challenging him to balance duty with conscience.

Key Themes and Concepts

  1. Moral Ambiguity — Cases rarely present clear right and wrong; Oshii must decide between imperfect outcomes.
  2. Burden of Memory & Trauma — The detective is shaped by past failures and personal losses, which color current investigations.
  3. Institutional Critique — The police and legal systems are portrayed as flawed and mired in politics, not always aligned with justice.
  4. Human Cost of Investigation — The narrative shows how crime solving affects families, detectives, and communities—often beyond closure or resolution.

Spoiler Section & Analysis

In later story arcs, Oshii uncovers that some cases are connected via a hidden thread—corruption, cover-ups, or shared victims. This leads him into conflict with higher-ups and personal danger. The climax forces a confrontation not just with a criminal, but with the institutional structure that enables crime. Oshii must choose whether to expose uncomfortable truths or protect fragile systems.

The article highlights how the drama uses visual language—fading light, tight interiors, reflective surfaces—to echo Oshii’s inner conflict. Small details (a dropped photograph, a paused clock) become metaphors for memory and moral pause. Rather than a dramatic reveal, resolution comes as partial understanding and uneasy quiet.

Conclusion

Oshii Keiji transcends typical detective tropes by making the investigator’s internal life as crucial as the case itself. It’s a meditative crime drama about duty, regret, and the limits of law. For viewers seeking depth, character nuance, and social critique woven into procedural storytelling, this series offers a rewarding and contemplative experience.


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