もし、麻酔が効いているはずの手術中に意識がもどる(手術中覚醒)が起きたらどうなるのか?
手術中覚醒とは、麻酔が効いていて身体は全く動かないが、何かのきっかけで脳内の意識が戻ってしまう現象です。
その間はもちろん手術中ですから、胸をメスで開かれたり、臓器を触られたりする感覚もあり、もちろん激痛を伴います。
これによって気絶し、たとえ手術に成功したとしても、心的ストレス(PTSD)にかかり、何年もその激痛を味わった感覚を取りされず苦しむ人がいます。今でも年間に1000人に1人の割合で起こるそうです。
この作品は、少年期にその手術内覚醒を体験した男が殺人鬼と化し、手術をした医師たちに復讐していくミステリー映画です。
「リターン」作品紹介
監督:イ・ギュマン
脚本:イ・ギュマン / イ・ヒョンジン
出演:キム・ミョンミン / ユ・ジュンサン / キム・テウ / チョン・ユソク / キム・ユミ 他
公開:2007年
「リターン」あらすじ
手術中覚醒
常緑樹病院にて、1人の少年(ナ・サンウ)が心臓病の手術を受けることになる。
全身麻酔によって手術が始まったが、何故か麻酔が切れてしまい、身体が反応できないものの、ナ・サンウは胸を開かれたり、心臓を触られるのを感じることが出来ていた。
それは同時に手術中の普段は感じることのない痛みも感じていることであり、ナ・サンウは心の中で「お願い、やめて、助けて」と叫ぶものの、医師たちは麻酔が効いていると思いこんでおり、ほんの僅かな身体の反応に気づく者は誰もいなかった。
手術は無事に終わったが、ナ・サンウは担当医師たちに対して麻酔が切れていたこと、それによって苦しんだことを訴える。しかし「夢と混同していたのだろう」として、普通は医療事故と扱われるにも関わらず、医師からの謝罪はなく、うやむやのまま処理され、問題になることはなかった。
25年後
そして25年の月日が経つ。
若きエリート外科医リュ・ジェウ(キ ム・ミョンミン)のもとに、手術中に女房が死んだことを根に持ったイ・ミョンソクという男から電話がかかってくる。
医療裁判で無罪になっていたリュ・ジェウに「お前の女房が死んだら俺の気持ちがわかるはずだ!」と脅迫めいた事を言うイ・ミョンスク。
「妻に手を出したら許さない!」と言うリュ・ジェウにイ・ミョンスクは「お前らみたいな医者を皆殺しにしてやる!」と言って電話が切れる。
気持ちを切り替え、リュ・ジェウは手術に執刀する。麻酔科医のチャン・ソクホはリュ・ジェウの無理な要求に答える事ができる良き相棒だった。
同じ日、リュ・ジェウの妻のヒジン(キム・ユミ)は仕事場からの帰り道、駐車場を出ようとした時にフロントガラスに鉢植えが落ちてくる。怪我はなかったが、誰が落としたのかは分からなかった。
夕方、幼馴染のカン・ウックァン(ユ・ジュンサン)が、アメリカから突然リュ・ジェウの自宅に訪問してくる。「お前に会いに来た」と言う突然の訪問にリュ・ジェウは一瞬驚いたものの、すぐに和んで話が弾む。しかし別れ際のカン・ウックァンの表情は何故か冴えなかった。
その夜、元常緑樹病院院長が、ビルから墜落死する事件が起こる。
ナ・サンウ
場面は25年前に戻る。
手術中覚醒を体験したナ・サンウはその後、異常な行動を取るようになっていく。10歳になった彼は学校帰りにひよこを売っていた男から10匹程度を購入。そのひよこを自宅の木に投げつけて殺す。その光景を怯えながらも心配そうに見つめる母親。
ナ・サンウの凶行はエスカレートする。彼は一人の少女(執刀した医師の娘)を殺し、学校のトイレの肥溜めに沈める。
目撃者の証言でナ・サンウは捕まるが、精神異常があるとして病院に隔離される。
そこでナ・サンウは小さなハチを手でつかまえて瓶に入れて眺めるという行動を取るようになる。父親が話しかけても反応せず、ただハチを眺めていた・・・
催眠麻酔
そして再び25年後。
ある日、リュ・ジェウの執刀した手術において、患者が悪性高体温症を起こす。手術は中断されたがリュ・ジェウは完治させる自信があった。しかし再び全身麻酔をすれば悪性高体温症が起こるだろうという麻酔科医のチャン・ソクホの進言により、再手術をしないようにとの上層部の司令を受けてしまう。
諦めきれないリュ・ジェウは、精神科医のオ・チフン(キム・テウ)に連絡する。オ・チフンは催眠術をかけることができるのではないかという噂があり、催眠による麻酔をしてくれないかとお願いする。
これに反対するチャン・ソクホ。彼は1年前の飲み会において、ゲームに負けた罰としてオ・チフンに催眠術をかけられたことを話し、「何を質問されたのか、そして何を答えたのか、全く覚えていない」と言い、その後も何度も悪夢を見ることを話す。彼にとってオ・チフンは得体の知れない、信用できない人物だった。
しかしリュ・ジェウは再手術をすることに決め、反対していたチャン・ソクホも麻酔科医として参加することになる。
オ・チフンによる催眠麻酔で手術は成功したが、チャン・ソクホはリュ・ジェウに対して不満を露わにする。
そんな時、元常緑樹病院に勤めていたリュ・ジェウの父親の同僚の娘が死んだことを聞かされる。ここ最近、常緑樹病院の関係者が次々と亡くなっていることが気になるリュ・ジェウ。
一方、自宅にはイ・ミョンソクによる嫌がらせ電話が頻繁にかかってきており、妻のヒジンは精神的に疲労していた。
そしてカン・ウックァンは知り合いから拳銃を入手していた。
ヒジンの危機
ある日、ヒジンが1人で公園のベンチに座っているときに首をハチに刺され気を失ってしまう。
その後しばらくして気が付くものの、彼女の体調は徐々に悪化していった。
その日の夜、家路に帰る途中でイ・ミョンソクの電話を受けたリュ・ジェウ。「お前の女房が浮気しているぞ。その場面を俺は見たんだ!」と笑いながら話すイ・ミョンソク。怒って怒鳴り散らすリュ・ジェウ。
家に帰るとヒジンが横になっていた。「大丈夫・・・」というヒジンだったが夜中に容体が急変したために緊急搬送される。レントゲンでお腹の中に何かの固形物があることがわかる。
その時間に別の医師がいないことで別の病院に移そうとするリュ・ジェウ。チャン・ソクホは「辛いだろうが、自分で執刀すべきだ」と進言する。
結局リュ・ジェウがヒジンの手術を執刀することになる。しかしヒジンを助けることが出来ず、自暴自棄になってしまう。
リュ・ジェウはイ・ミョンソクがヒジンの死に関わっていると思い、警察にこれを進言。警察は参考人としてイ・ミョンソクを取り調べるが、証拠不十分としてイ・ミョンソクを釈放する。
警察の対応に不満を漏らすリュ・ジェウ。しかし数日後にイ・ミョンソクが事故死したことを聞き、遺体を確かめに行く。そこで自分より先にイ・ミョンソクの死亡を確認に来たのが精神科医のオ・ジフンだと知る。更にヒジンの体内からPMMA(アクリル樹脂)の成分があることが確認される。
それにより、ヒジンは公園で気を失っている間に何者かに注射され、体内にアクリル樹脂を混入されたことを推理する。
そんな時、アメリカにいるカン・ウックァンと共通の友人から連絡があり、カン・ウックァンは誰かを殺すために韓国に行ったことを聞かされる・・・
ホテルのカン・ウックァンの部屋で病院関係者の死亡記事の切り抜きと拳銃を見つけたリュ・ジェウ。そこにやってきたカン・ウックァンに拳銃を向けるリュ・ジェウ・・・
死の真相
カン・ウックァンは犯人ではなく、元常緑樹病院に勤めていた医師の息子だった。彼の家族は何者かに車に仕掛けられた爆弾によって殺されていた。そして彼の妹は、ナ・サンウに殺されトイレの肥溜めに沈められた少女だった。
2人はミョンソクとオ・チフンが何かしら繋がっていると察し、カン・ウックァンが秘密裏にオ・チフンを調べることになる。
カン・ウックァンはオ・チフンが麻酔科医のチャン・ソクホの机を物色しているところで乗り込み、彼を問いただす。オ・チフンは「チャン・ソクホこそ”ナ・サンウ”であり、一連の事件の犯人だ」と告白する。
オ・チフンはヒジンの手術中の監視映像をカン・ウックァンに見せる。そこにはチャン・ソクホがこっそりヒジンの足の裏をくすぐり、手術中覚醒させている場面が映し出されていた。つまりそれによってヒジンは激しい痛みに襲われ、そのショックで亡くなったことが判明する。
一方、リュ・ジェウの元に死んだはずのイ・ミョンソクの携帯から「犯人は屋上にいる」というメールを受け取る。病院の屋上にはヒジンの遺骨とともに、チャン・ソクホが書いたと思われる告白文が置いてあった。
告白文には自分がヒジンにアクリル樹脂を埋め込んだこと、リュ・ジェウしか執刀できない状況にしたこと、麻酔中に足の裏を触って麻酔を効かせなかったこと、ヒジンが手術中覚醒していて苦しみながら死んだこと、そして直接殺したのは執刀したリュ・ジェウ本人であることが書かれていた。
それを読んだリュ・ジェウは悲しみのあまり、自身の腕、足を拳銃で撃ち、更に頭をも撃とうとする。しかし直前でカン・ウックァンが駆けつけ、自殺を食い止める。
その頃、チャン・ソクホがオ・チフンの部屋を訪れていた。
対決
リュ・ジェウが治療中の時に、カン・ウックァンはオ・ジフンから「チャン・ソクホに誘拐された」という電話を受ける。カン・ウックァンは単独で捕まっている場所に赴くと、後ろからチャン・ソクホに襲われる。
無我夢中でチャン・ソクホと戦うカン・ウックァン。最終的にはチャン・ソクホの死で事件は解決するものの、カン・ウックァンは警察から事情聴取を受けることになる。
助けられたオ・チフンは入院しているリュ・ジェウのために自宅からヒジンの写真などを箱に入れ、病室に持ってくる。
リュ・ジェウはヒジンが写っている写真を嬉しそうに眺めていた。その中にはいくつかの私物が入っていたが、見慣れない携帯も入っていた。それはイ・ミョンソクの携帯だった。その傍らで、驚いているリュ・ジェウに気づかず、窓にいた小さなハチを触ろうとしているオ・チフン・・・
一方、事情聴取中のカン・ウックァンはチャン・ソクホがヒジンの足の裏を触っている映像が入ったビデオテープを見せようとする。しかしそのテープには何も映っていなかった。
真犯人
イ・ミョンソクの携帯を間違って箱に入れてしまったことを告白するオ・チフン。彼こそナ・サンウであった。
イ・ミョンソクはオ・チフンがベンチに座ってヒジンに注射を打っているところを見つけて浮気していると思い込み、オ・チフンを脅迫していた。オ・チフンはイ・ミョンソクを殺し、彼の携帯を奪っていたが、リュ・ジェウの自宅でうっかりポケットから落とし、それをヒジンの私物の携帯だと思い込み箱に入れてしまっていた。
オ・チフンはチャン・ソクホを催眠術で操り、ヒジンの足の裏を触らせ、オ・ジフンを助けに来たカン・ウックァンを襲わせていた。
病室で薬を打たれて意識朦朧のリュ・ジェウを殺そうとするオ・チフン。しかし寸前のところで移送中のパトカーから逃げ出していたカン・ウックァンに返り討ちに遭って絶命。リュ・ジェウは救い出された。
「リターナー」感想
主人公はリュ・ジェウであり、彼の妻が殺され、そのショックで悲しみに暮れながら暴走ぎみの様子は共感が持てますが、もともとはオ・チフンの幼少期に起きた事故による復讐劇がベースとなっているようです。
なぜオ・チフンは成人になっても復讐を続けたのか?それは精神病院に入れられた我が子を嘆いた母親がオ・チフンを抱いてビルから飛び降りて心中を図ります。しかし気が変わったのか、はたまた偶然か、母親は下敷きになったためオ・チフンは助かります。
このことがきっかけで、オ・チフンは母親の復讐も自ら負ってしまったのです。
そして最後には何者かがオ・チフンの遺骨を家に持ち帰り、子供の頃の映像を見ているシーンで終わります。おそらくアメリカに移住していた父親ではないかと思われます。
しかし母親の死や最後のシーンは強引に入れた感があり、無理に涙を誘うようにしたのかと思ってしまいました。そこはなくても良かったのではないかと思いました。
謎解きが好きな方にはオススメです。